Amazon Bedrock Knowledge BasesがAmazon OpenSearch Serviceマネージドクラスターをベクトルストアとしてサポート開始――企業にとっての大きな一歩
企業が生成AIの活用を進めていく中で、「信頼性」あるアウトプットを保つことが重要になっています。生成AIは、従来の質問応答型AIと異なり、膨大なデータから自然言語による回答を示すことができるものの、その回答の正確性を担保する仕組みが不可欠です。そこで注目されるのが「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」と呼ばれる手法です。
このたび、Amazon BedrockにおけるKnowledge Bases機能がAmazon OpenSearch Serviceマネージドクラスターをベクトルストアとして公式にサポートするようになりました。これにより、企業ユーザーは信頼性の高い生成AIアプリケーションを、より柔軟で安全な形で構築できるようになったのです。
本記事では、Amazon BedrockのKnowledge BasesがAmazon OpenSearch Serviceをサポートする利点、導入によって想定されるユースケース、RAGの実装方法、そして今後の展望について、わかりやすく解説していきます。
◆ Amazon BedrockとKnowledge Basesとは?
Amazon Bedrockは、OpenAIやAnthropic、Cohereなど主要な大規模言語モデルをAPI経由で簡単に利用できるサービスです。わざわざ機械学習インフラを用意したり、コンテナでホスティングしたりすることなく、エンタープライズレベルの生成AI技術をシンプルに導入できます。
Knowledge Basesは、そのBedrockに組み込まれた機能の一つで、社内のドキュメントや製品マニュアル、FAQ集などの独自データソースを活用して、より正確でコンテキストに沿った回答を生成する仕組みです。ユーザーが自然言語で質問を投げかけると、内部データに基づいた情報をまず検索してくる(これがretrieval)、その情報を元に言語モデルが回答する(これがgeneration)――これがRetrieval-Augmented Generation(RAG)と呼ばれる仕組みです。
◆ ベクトルストアとしてのOpenSearch Serviceの意義
RAGの実現には、「ベクトルストア」と呼ばれる技術基盤が不可欠です。質問や関連文書をベクトル(数値)として表現し、類似性の高いものを検索することで、文脈に合った情報取得が実現されるからです。
従来、Knowledge BasesではベクトルストアとしてAmazon Aurora PostgreSQL(pgvector拡張使用)やAmazon DynamoDBといったサービスが利用されてきました。そこに新たに、オープンソースベースの全文検索エンジンであるOpenSearch Serviceのマネージドクラスターが加わったことは、大きな進化です。
Amazon OpenSearch Serviceは、高速かつスケーラブルな検索を可能とし、セキュリティや運用のしやすさでも定評があります。生成AIの成果物が、検索対象文書と高い関連性を保ちながら提供されることで、エンドユーザー体験の向上が期待されます。
◆ どのように使うか?セットアップの流れ
Knowledge BasesでOpenSearchを使う際のセットアップは、ステップバイステップで進みます。まず、ユーザーはOpenSearch Serviceのマネージドクラスターを作成し、インデックスを設定します。続いて、Knowledge Basesにデータソース(例:Amazon S3バケット上のPDFやTXTファイル)を接続します。
Amazon Bedrockがこれらのデータを自動的に分割し、テキストベースのベクトルへとエンコードします。このエンコードには、例えばAmazon Titan Embeddingsモデルなどの埋め込みモデルが使用されます。これにより、OpenSearch内部にベクトル情報が格納され、高度な類似検索が実現するのです。
質問が入力されると、Knowledge BasesはまずOpenSearchベースのベクトル検索を行い、関連情報を検出します。その上で、選択した大規模言語モデル(例:Anthropic ClaudeやAI21 LabsのJurassicなど)が最終的な応答を生成します。
◆ OpenSearchの活用によるメリット
OpenSearchをベクトルストアとして活用することで、以下のような恩恵を受けることができます。
– 高速でスケーラブルな検索性能:数百万~数十億件以上のドキュメントを対象とした検索でも応答性が高く、対話型AIにおいてストレスのないレスポンスを実現します。
– フルマネージドによる運用負荷の軽減:OSやパッチの管理、スケーリング処理などを意識することなく、インフラの心配を最小限に。
– セキュリティとアクセス制御:IAMベースの認証・認可により、企業の内部情報を堅固に保護できます。
– ベクトルデータとキーワード検索のハイブリッド:ベクトル検索と通常のキーワード検索を組み合わせたユースケースも実現可能です。
このように、OpenSearch Serviceは単なる「検索エンジン」の枠を超え、生成AI時代における「文書知識の橋渡し役」として機能していくでしょう。
◆ 主要なユースケース
OpenSearchベースのKnowledge Basesは、さまざまな業種・業界で活用が見込まれます。
– カスタマーサポート:製品マニュアルやお問い合わせ履歴をベースに、ユーザーからの自然言語質問に即座に対応可能なチャットボットを構築。
– 社内ナレッジ検索:従業員が社内ポータルに質問を投稿すると、人事制度やITマニュアルなどの情報源から正確かつ迅速に回答を得ることができる。
– 教育・研修ツール:新入社員のトレーニングや製品知識習得を、文書ベースのナレッジと生成AIによる対話形式でサポート。
– 製品開発:技術文書に基づいた検索支援により、エンジニアや開発者が関連情報を素早く取得し、判断の精度とスピードを向上。
◆ 今後への期待と拡張性
OpenSearch ServiceがKnowledge Basesのベクトルストアとして統合されたことにより、生成AI活用の柔軟性は飛躍的に高まりました。その先には、さらなる埋め込みモデルのサポートや、検索品質のチューニング、高度なアクセス制御との連携など、進化の余地が多分に残されています。
また、RAGは今後の生成AIのスタンダードな戦略の一つとして成長が期待されます。社内データや業界ナレッジを活用した信頼性の高い生成AIをいかに構築するか――そうした企業の課題に対して、Amazon Bedrock+OpenSearchという組み合わせが強力な選択肢となるでしょう。
◆ まとめ
生成AIの信頼性向上を目指す多くの企業にとって、RAGの導入は避けて通れないテーマです。Amazon BedrockのKnowledge BasesがAmazon OpenSearch Serviceマネージドクラスターによるベクトル検索をサポートしたことで、より多様かつ堅牢な生成AIアプリケーション開発が可能になりました。
これにより、エンタープライズ領域における生成AIの活用はますます広がっていくでしょう。構築のしやすさ、セキュリティ、スケーラビリティ――それらを併せ持つこの新たなソリューションは、多くの企業にとって生成AI導入の起点となるはずです。
企業が持つ知識と生成AIの可能性を、より確実に、そしてスピーディーに結びつけるために。Amazon BedrockとOpenSearchの統合は、その架け橋となる重要な進化です。