カスタマーサポートの現場では、日々多くの通話が交わされ、その一つ一つに貴重な顧客の声が含まれています。企業にとって、この顧客の声を正確に把握し、素早く改善に活かすことは、サービス品質向上やブランド価値強化に直結する重要な要素です。しかし、膨大な通話内容を人力で分類・分析するのは時間とコストがかかります。そんな課題をスマートに解決するために登場したのが、Amazon Bedrockを用いたバッチ推論(Batch Inference)によるコールセンター会話の分類です。
この記事では、Amazon BedrockとAWSの関連サービスを活用して、コールセンターでの音声通話データを効率的かつ高精度に分類する方法を紹介します。AIの力を借りて、手間のかかる音声の分類作業を自動化し、より迅速にインサイトを得るための具体的なステップや構成も紹介しており、技術者や運用担当者にとっても実践的な内容となっています。
Amazon Bedrockとは?
Amazon Bedrockは、様々な大規模言語モデル(Foundation Models)をAPI経由で簡単に活用できるサービスです。これにより、機械学習の専門知識がなくても、テキスト生成、分類、要約、感情分析といった高度なAIモデルを活用することが可能になります。Amazon TitanやAnthropic、AI21 Labsなど複数のモデルを選べる点も大きな強みです。今回紹介するユースケースでは、このBedrockを使って、音声通話の文字起こしデータを分類するAIアプリケーションを構築します。
ユースケース:コールセンター通話の分類
コールセンターのシナリオで想定される通話は多岐にわたります。例えば「請求に関する問い合わせ」「技術的な支援」「契約の更新」「苦情対応」などがあり、こうした通話をカテゴリごとに分類できれば、オペレーションの最適化に役立ちます。本ユースケースでは、こうした目的を達成するために、音声通話データを次のようなステップで処理していきます。
1. オーディオファイルの収集と文字起こし
2. 文字起こしデータの事前処理
3. Amazon Bedrockのバッチ推論による一括分類
4. 分類結果の保存と可視化
それぞれのステップを詳しく見ていきます。
ステップ1:音声データの収集と文字起こし
最初のステップでは、コールセンターの音声データをAmazon S3に保存します。その後、Amazon Transcribeを使用して音声を文字起こしします。Transcribeは業界トップレベルの高精度な音声認識を提供しており、通話内容を自動的にテキストに変換できます。このステップを自動化することで、日々蓄積される大規模な通話データを漏れなく取り込み、すばやく次の分析へとつなげることが可能です。
ステップ2:文字起こしデータの整形と事前処理
Transcribeによって得られた文字起こしデータをそのままAIに渡すのではなく、より情報を受け取りやすくするために、不要な記号の削除やフォーマットの調整といった事前処理を行います。また、会話の冒頭部分だけでなく、全体的なコンテキストがわかるように構造化しておくことで、大規模言語モデルによる分析の精度が高まります。
ステップ3:Amazon Bedrockでのバッチ分類推論
いよいよ本ユースケースの中心であるバッチ推論の出番です。1件ずつリアルタイムに処理するのではなく、事前にまとめて用意しておいた複数の文字起こしデータを一括で処理します。これにより、大量データへのスケーラビリティを確保しながら、効率的に分類処理を行うことが可能になります。
Amazon Bedrockでは、前述のように複数のAIモデルを選ぶことができ、カスタマイズしたプロンプトとともに入力することで、目的に応じた分類ラベル(例:「請求」「トラブル」「苦情」など)を返してくれます。これらの分類結果はJSON形式などで取得でき、後続のデータ処理や可視化に活用可能です。
ステップ4:結果の保存と活用
分類された結果は、Amazon S3やAmazon Redshiftなどのデータストレージサービスに保存することで、ダッシュボードでの可視化や、他システムとの連携がしやすくなります。例えば、Amazon QuickSightを使えば、カテゴリ別の通話トレンドや顧客満足度に関する分析結果を直感的に理解できるようになります。
クラウド上で完結するこのシステムアーキテクチャは、AWS Step FunctionsやAWS Lambdaを用いたオーケストレーションによってさらに自動化することも可能で、ほぼ人の手を介さずに、終始一貫したデータプロセッシングが実現できます。
システム構成の概要
記事で紹介されたシステム構成は、以下のようなAWSサービスを組み合わせて構築されています。
– Amazon S3:音声ファイルと出力結果の保存先
– Amazon Transcribe:音声→テキスト(文字起こし)
– AWS Lambda:処理イベントのトリガー
– AWS Step Functions:プロセスの管理・自動化
– Amazon Bedrock:LLM(大規模言語モデル)による分類処理
– Amazon Redshift/Athena:データ分析・クエリ処理
– Amazon QuickSight:ダッシュボードによる可視化
必要に応じて、Amazon EventBridgeを使ってイベント駆動型のアーキテクチャを追加することもでき、自社のビジネス要件に柔軟に対応可能な構成になっています。
セキュリティと運用面の配慮
AWSの各サービスは、セキュリティとコンプライアンス要件を満たすように設計されており、音声データや顧客情報を扱う際にも安心して利用できます。IAM(アクセス管理)によって利用者の権限を細かく制御できるほか、AWS Key Management Service (KMS) を利用すれば、保存時の暗号化も簡単に設定できます。
また、Amazon CloudWatchを用いたログ監視やアラート設定によって、システムの稼働状況や異常の早期発見も実現でき、運用の信頼性が高まります。
まとめ:エンパワーメントと効率化を両立するソリューション
今回ご紹介した、Amazon Bedrockを使用したコールセンター会話の分類ソリューションは、AIを活用した業務最適化の実践例として、多くの企業にとっての参考になるものといえます。特に以下のような利点があります。
– 膨大な通話データを自動分類することで、人的リソースの節約
– 通話目的や傾向の可視化により、顧客ニーズの迅速な把握が可能
– LLM(大規模言語モデル)をノーコードまたはローコードで活用可能
– バッチ処理により、スケーラブルなシステム運用が可能
AIの民主化とも言われる現在、新たなツールやサービスを取り入れることで、現場の業務改善だけでなく、従業員の負担軽減や顧客体験の向上に寄与するケースが各所で見られています。Amazon Bedrockは、そうした取り組みをより速く、より安全に実現するための強力なパートナーとなるでしょう。
未来のカスタマーサポートは、AIの力によって「会話データからインサイトを得る」ステージへと進化しつつあります。そしてこの進化を支える技術こそが、AWSが提供するこれらのクラウドサービスなのです。すでにAWSを利用している企業はもちろん、これからクラウド移行を検討する中小企業にとっても、手軽に始められる新しい可能性として、このユースケースをぜひ参考にしてみてください。