近年、企業は膨大なデジタルデータに直面し、そこから有益なインサイト(洞察)をリアルタイムで抽出することがますます重要になっています。これに伴い、AIや機械学習の高度な技術が企業活動の中核をなすようになってきています。今回ご紹介するNetsertiveの事例は、そんな現代において企業がどのようにして生成AI(Generative AI)を活用し、リアルタイムのデータからスケーラブルかつ効果的なマーケティング支援を行っているのかを示す好例です。
この記事では、NetsertiveがAmazon Web Services(AWS)の最新サービスである「Amazon Bedrock」と「Amazon Nova」を活用して、どのようにしてスケーラブルなAIアシスタントを構築し、高速で意味のあるインサイトを得るための仕組みを構築したのか、その詳細をご紹介します。
Netsertiveとは?
Netsertiveは、分散型マーケティングのリーダーとして知られています。フランチャイズ、全国ブランド、ディーラー・リセラーなど、多様なローカルマーケティング支援を行う企業です。Netsertiveのマーケティング・エンジンは、大量のリアルタイム・データを処理し、それを基に広告パフォーマンスを最適化することで、顧客のビジネス成果を高めています。
しかし、同社が扱うデータの量と複雑性は年々増しており、人間だけでは追いつかないレベルに達していました。そこで活用されたのが、生成AIを用いたアシスタントの構築というアプローチです。
リアルタイムインサイトを求めて:課題と目指す姿
Netsertiveでは、多くのクライアントから集まる広告キャンペーン、ユーザーの行動、トラフィックデータ、コンバージョン実績など、多様で動的なデータを日々扱っています。これらのデータをリアルタイムで分析し、必要なインサイトを抽出することは、意思決定スピードの向上と競争優位性の獲得に直結しています。
しかし従来は、BIツールや分析チームによる対応が中心であり、リアルタイム性や柔軟性に限界がありました。マーケティング担当者やアナリストが自身で複雑なSQLクエリを構築せずとも、自然言語による対話でインサイトを得ることが望まれていました。
この課題を解決するため、NetsertiveはAmazonの提供する先進技術をフル活用し、柔軟かつスケーラブルに対応できるAIアシスタントの構築に乗り出しました。
Amazon BedrockとAmazon Novaの活用
Netsertiveが用いた鍵となるサービスが、Amazon BedrockとAmazon Novaです。それぞれの技術について簡単にご紹介します。
■ Amazon Bedrock
Amazon Bedrockは、開発者が大規模言語モデル(LLM)を使用した生成AIアプリケーションをすばやくかつ簡単に構築できるマネージドサービスです。Anthropic、Stability AI、AI21 Labs、Amazon Titanなどの複数の基盤モデル(FM)を統一されたAPIで利用できるため、モデルごとの学習やチューニングの必要がなく、開発のハードルが大幅に下がります。
■ Amazon Nova
Amazon Novaは、AIエージェントのフレームワークであり、ユーザーの自然言語指示に従って、一連のステップを自律的に実行する「エージェント」を作成できます。複雑なタスクを分解して逐次処理し、データ取得やフォーマット変換、分析、そしてインサイト提供までを一連のフローとして実行可能です。
この2つのサービスの組み合わせにより、NetsertiveのAIアシスタントは以下のような高度な機能を実現しました:
– 自然言語によるインサイトの要求(例:「今週のキャンペーンで最も効果の高い広告は?」)
– 内部のBiデータベースとの対話
– クエリの自動生成とデータ取得
– 結果の要約と解釈をわかりやすく返答
– インサイトに対するアクション提案(例:「次のキャンペーンではこの広告を強化すべきです」)
ユースケース:マーケターとAIアシスタントのやり取り
実際のユースケースを見てみましょう。
マーケティングマネージャーが以下のような指示をAIアシスタントに出します。
「今週、ニューヨーク地区で実施したディーラーキャンペーンのパフォーマンスはどうだった?」
これに対してアシスタントは背後で以下の処理を行います。
1. 質問の意図を自然言語処理で解析
2. 該当するBIデータベースから必要な情報を抽出するSQLクエリを構築
3. 分析結果をわかりやすくまとめて返答(例:「ニューヨーク地区では、CTRが前週比で12%上昇し、コンバージョン率も改善されています」)
4. 次のアクションとして推奨事項を提示(例:「今後も同様の訴求軸を活用することをおすすめします」)
このように、AIアシスタントは専門的な知識がなくても、担当者の意思決定をリアルタイムで支援するパートナーとして機能します。
成果と今後の展望
Netsertiveは、このAIアシスタント導入により、社内のマーケティング分析フローの効率が飛躍的に向上したとしています。具体的には、以下のような成果が得られています。
– データにアクセスするまでの時間が短縮され、市場対応力が向上
– 人的リソースの最適化(従来はアナリストによる手動分析が必要だった)
– マーケターが柔軟に仮説検証を行えるようになった
さらに、生成AIをベースとしたインターフェースの導入により、ユーザーエクスペリエンスそのものが大きく変わりました。専門知識がなくても、まるで会話をするようにデータと向き合えることは、今後多くの業界で標準的なスタイルになっていくものと思われます。
今後は、生成AIを活用した支援領域をさらに広げ、広告コピーの自動生成や、競合分析結果の自動要約など、より広範なマーケティングワークフローへの統合を進めていく計画とのことです。これによって、Netsertiveは単なるツール提供企業から、戦略パートナーとしての地位を確立していくことでしょう。
まとめ:AIと人の共創による新しいマーケティングの形
Netsertiveが実現したように、AIは人間の仕事を置き換えるのではなく、補完し、高める存在です。特にリアルタイムでの意思決定や多変量の分析が求められる現場において、AIアシスタントの貢献は大きく、多くの企業にとって導入の価値があることを実証しています。
AWSが提供するAmazon BedrockやNovaといった最新テクノロジーは、開発の複雑さを大幅に下げ、誰にでも柔軟で強力なAIアシスタントを構築できる時代を切り拓いています。
今後も、AIとクラウド技術の進化により、私たちは仕事やビジネスのあり方を根本から変えていくことが求められるでしょう。そのような変化に適応し、前向きに取り入れていくことが、持続的な成長への鍵となります。
私たちが目指す未来は、テクノロジーと人間の協業によって、より創造的で生産的な仕事が実現される社会です。Netsertiveの取り組みは、その最前線に立つ一例と言えるでしょう。