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超大規模LLMをAWSで高速・省コストにファインチューニング:SageMaker HyperPod Recipes実践解説【Part 2】

現代のAI開発において、大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)のトレーニングやファインチューニングは、その莫大な計算資源の要求や技術的な複雑性から、多くの開発者や企業にとって大きな挑戦となっています。特に、数百億から数千億のパラメータを持つモデルを現実的なスケジュールと予算の中でカスタマイズし、目的に応じた性能を引き出すには、高度なインフラとエンジニアリングの工夫が必要になります。

今回ご紹介するのは、Amazon SageMaker HyperPodとそのレシピ(レシピとは、インフラ設定・ワークロードの実行手順・最適化ノウハウを体系的にまとめたもの)を活用し、DeepSeek R1-670Bという超大規模LLMを効果的にカスタマイズする方法について解説したブログの第2回目(Part 2)の内容になります。この記事では、特にクラウドインフラの構成、パフォーマンスの最適化、ファインチューニングの工程に焦点をあてています。本記事では、そのエッセンスを日本語でわかりやすくまとめながら、実際の運用にどのように役立てられるかを解説していきます。

DeepSeek-R1 670Bとは?

DeepSeek-R1は、名前の通り約6700億のパラメータを持つ大規模言語モデルで、コードと自然言語を理解・生成する能力を有しています。ChatGPTやClaudeなどと同様、高い性能を発揮することができるポテンシャルを秘めています。ただし、その応用には膨大なGPUリソース、通信帯域、メモリ、そして適切な分散トレーニングの知識が求められます。

Amazon SageMaker HyperPodとは?

SageMaker HyperPodは、分散トレーニングに最適化されたクラウドベースのインフラストラクチャです。LLMのトレーニングやファインチューニングといった重たいAIワークロードを高パフォーマンスかつスケーラブルに処理するために提供されている完全マネージドの環境で、ネットワークの最適化、ストレージの最適構成、マシンリソースの効率的な活用が特徴です。

HyperPod Recipesとは?

HyperPod Recipesは、このHyperPod上で特定のLLMをトレーニング/ファインチューニングするための”実践ガイド”です。レシピには以下のような内容が含まれています:

– 推奨されるAMI(Amazon Machine Image)とドライバ
– ノード数と各ノードのGPU数の選定
– ファイルストレージやCheckpointsの保存場所の管理
– DeepSpeedやMegatron-LMのような分散学習ライブラリの活用方法
– GPU間通信の最適化(例えばNCclの設定)

パート2の主な内容

今回のパート2では、以下の点が中心的に述べられています:

1. 分散トレーニングにおけるネットワークと通信の最適化
2. Job Schedulingとパフォーマンスモニタリング
3. 再現性の高いワークフローの構築
4. 実際の結果と学び

それぞれを順に解説していきます。

1. ネットワークと通信の最適化

巨大な670Bパラメータのモデルを複数のGPUにまたがって効率よくトレーニングするためには、ノード間の通信遅延や帯域制限が大きなボトルネックになります。SageMaker HyperPodは、Amazon EC2 UltraClusterインフラを活用しており、これにより以下のことが可能です:

– 高速Elastic Fabric Adapter(EFA)による低レイテンシー通信
– マルチノードでの効率的な NCCL コンフィギュレーション
– 階層型トポロジーに基づいた通信設計

このように、高速ネットワークと通信の最適化により、トレーニングに要する時間が大幅に短縮されます。特にAllReduceアルゴリズムや、パイプライン並列処理を効率化することで、時間当たりのスループットも向上します。

2. Job Schedulingとモニタリング

HyperPodでは、SageMaker Training Jobによるスケジューリングが可能であり、トレーニングの進捗・GPUの使用状況・エラーの事前検出など、全体のパフォーマンスを細かくモニタリングできます。さらに、SageMaker DebuggerやCloudWatchを活用することで以下の利点が得られます:

– GPUごとの利用率の把握
– メモリ使用量のリアルタイム分析
– 断続的なネットワーク問題の早期発見

これらの機能は、単なるトレーニング作業だけでなく、トラブルの予防的管理にも役立ちます。

3. 再現性の高いワークフロー

AI開発において重要なのは、一度得られた結果を正確に再現できることです。HyperPod Recipesでは、Infrastructure as Code(例えばAWS CloudFormation, Terraform)の考え方が取り入れられており、環境構築からトレーニングまでをコードベースで管理できます。これにより以下の効果が見込まれます:

– チーム間で一貫性のある開発プロセスを共有
– モデル開発のバージョン管理
– 実験結果の比較と分析が容易に

また、モデルのファインチューニングに使うパラメータ設定や学習率のスケジューリング方法についても事前に標準化され、失敗の少ない学習が可能です。

4. 実際の成果と学び

記事の最後では、実際にHyperPod環境でDeepSeek-R1 670Bをカスタマイズした結果、1.8TBのトレーニングデータを24ノード上で効率よく処理し、当初の期待値を超えるモデル性能が得られたという報告がありました。さらに、各ステップでのBest Practice(推奨手法)が細かく記述されており、今後同様のプロジェクトを検討している開発者にとって非常に実用的です。

このプロジェクトを通じて得られた主な学びは以下の4点です:

– 適切な分散設計は、GPUリソースを最大限に活かす鍵
– モニタリングとロギングの整備は、品質管理に不可欠
– クラウド基盤の活用により、インフラにかかる時間とコストを大幅削減
– レシピベースのアプローチは、複数プロジェクトにわたる再利用性を向上

結論

LLMのカスタマイズは一見非常に敷居の高い取り組みに見えますが、SageMaker HyperPodとその実証済みのレシピを活用すれば、より多くの開発者や企業が自前のインフラに頼らずとも、安全かつ効率的に大規模モデルのトレーニングを行うことが可能になります。本ブログシリーズ(Part 1とPart 2)は、その一連の流れを非常に丁寧に紹介しており、機械学習エンジニアやMLOps担当者にとって確かなガイドラインとなることでしょう。

AWSのマネージドサービスを最大限に活かしながら、複雑なAIワークロードを持続的に運用していくための戦略として、HyperPod Recipesは今後ますます重視されていくことが予想されます。

今後もこのような最先端の技術活用事例を紹介していきますので、ぜひ引き続きご注目ください。