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Amazon Bedrockで実現するAIコスト最適化:アプリケーション推論プロファイルを活用したマルチテナント戦略

Amazon Bedrock でアプリケーション推論プロファイルを活用し、マルチテナント環境のコストを最適化する方法

生成系AIがさまざまな業界で導入され、その効果が認識される中、多くの企業が複数の顧客(テナント)に向けてAIを提供するサービスを構築しています。特に、生成系AIの能力を利用してコンテンツ生成、データ解析、インサイト抽出などの機能を提供するSaaSアプリケーションは増加傾向にあります。こうしたアプリケーションは、基盤となる大規模言語モデル(LLM)に複数のテナントから繰り返しアクセスする仕組みになっており、その使用量が膨大になるほど、コストの透明性と制御性が極めて重要となります。

このような課題に対処するための手段の一つとして注目されているのが、Amazon Bedrock における「アプリケーション推論プロファイル(Application Inference Profile)」の活用です。この記事では、マルチテナント環境でのAmazon Bedrock活用におけるコスト管理のベストプラクティスとして、「アプリケーション推論プロファイル」がどのように機能し、どのように運用すべきかを解説します。

Amazon Bedrockとは

まず、Amazon Bedrock について簡単におさらいすると、これは Amazon Web Services (AWS) が提供するフルマネージド型の生成系AI基盤サービスであり、複数の主要な基盤モデルプロバイダー(Anthropic、Cohere、AI21 Labs、Stability AI、Amazon Titan など)のモデルへAPIベースでアクセスできる仕組みです。Amazon Bedrockを利用することで、サーバー管理・インフラ構築を最小限に抑えつつ、カスタマイズ可能なLLMを短時間でアプリケーションに組み込むことができます。

また、データをユーザーが管理するアカウント内だけにとどめる設計となっているため、プロンプトや生成内容はモデルプロバイダーと共有されず、安全性・プライバシーの面でも高い評価を得ています。

マルチテナント環境における課題

SaaSやプラットフォーム・ベースのサービスを提供している企業は、多くの場合、複数の企業・顧客をそれぞれ一つのテナントとして扱い、それぞれにAIサービスを提供しています。こうしたマルチテナント環境下では、次のような課題が頻繁に発生します。

1. コストの可視化が困難:
複数テナントによる使用状況が集約されるため、どのテナントがどのくらいリソースを消費しているかを一目で把握することが難しくなります。

2. リソース消費の偏り:
一部テナントが大量にLLMを利用している場合、それが全体のリソースに大きな影響を与え、他のテナントに影響を及ぼしかねません。

3. コストの割り当ておよび課金の不公平性:
使用量に応じた課金を行うには、正確な使用量の分離・追跡能力が求められます。

こうした状況で必要とされるのが、テナントごとの使用量の追跡、コスト把握、プロファイル別の制御、そして将来的な請求精度の向上といった機能です。

アプリケーション推論プロファイルの概要

Amazon Bedrock が提供するアプリケーション推論プロファイルは、このようなマルチテナント環境での課題に対処するための機能です。アプリケーション推論プロファイルを活用すれば、Bedrock 上で発生する推論リクエストを個別の「プロファイル」単位で追跡・管理することが可能になります。

これにより、各リクエストがどのテナント、ユーザー、アプリケーションからのものであるかを識別・追跡することができ、より柔軟で詳細なコスト管理レポートの作成や、内部請求への適用が実現可能になります。

具体的な機能と利点

1. 独立したIDでのリクエスト追跡:
それぞれのアプリケーション推論プロファイルは一意のIDを持ち、このIDを使ってCloudTrailやAWS Billingレポートでの一致確認やトレーシングが可能です。これにより、特定のアプリケーション単位、あるいはテナント単位での使用状況を明確に追跡できます。

2. コスト配分の均一化と精査:
プロファイルIDごとに使用量とコストを追跡できるため、特定テナントの使用状況に応じて、請求や課金の調整が容易に行えます。

3. アクセス制御とガバナンスの強化:
プロファイルごとにIAMポリシーを設定することで、各テナントが許可された範囲内でのみLLMを利用できるよう制御可能です。これにより、不正利用や過剰利用のリスクを緩和できます。

4. サービス内部での統合:
Amazon CloudWatch、AWS Cost Explorer、AWS CloudTrail などのサービスと連携し、システム全体のモニタリングと可視化、さらには監査の簡素化を実現します。

実運用におけるベストプラクティス

アプリケーション推論プロファイルを活用してコスト制御を実現するには、いくつかの注意点と運用ノウハウがあります。以下に代表的なベストプラクティスを紹介します。

1. テナントごとにプロファイルIDを割り当てる:
可能な限り、それぞれのテナントやアプリケーションに対して、専用の推論プロファイルIDを作成することが推奨されます。これにより、リクエスト発生元のトラッキングが容易になり、異常な使用状況があっても迅速に検知することができます。

2. IAMロールと連携したアクセス制御:
プロファイルに対して特定のIAMロールを紐づけ、アクセスできるユーザーやアプリケーションを制限します。たとえば、送信できるプロンプトの形式や頻度を制御することで、サービスの安定性と予期しないコストの発生を防げます。

3. モニタリングとアラート設定の活用:
CloudWatch アラームを設定して、一定以上の推論処理が行われた場合に通知を受け取るように設定します。これにより予測外の急激な使用増加にも即座に対応可能です。

4. コストエクスプローラーを活用したレポート構築:
AWS Cost Explorer にてプロファイルIDごとの使用量や使用パターンをベースにしたレポートを構築し、社内の課金システムに転用することで、透明性のあるコスト配分が可能になります。

ユースケースと効果

実際のユースケースとして、AIを活用したチャットボットサービスを提供するSaaS企業では、テナントごとにアプリケーション推論プロファイルを設定することで、各顧客に対し利用状況を見える化し、それに応じて段階的な課金体系を導入することができました。加えて、頻繁なAPIコールに対してもアラートシステムを導入したことで、費用の急上昇リスクを事前に防止できたという成果も挙げられています。

また、内部の請求処理においても、これまでの平滑化された計算から、より正確な使用量ベースの料金請求モデルに移行することができ、企業全体のガバナンス強化にもつながりました。

将来的な展望とまとめ

これからのAI時代において、生成系モデルを基盤とするアプリケーションの需要は加速度的に高まっていくと予想されます。それに伴って、マルチテナント環境における透明性の高いコスト管理や、個別の使用状況の追跡はますます重要な要素となります。

Amazon Bedrock のアプリケーション推論プロファイルは、単なるリクエスト識別のためのラベル機能にとどまらず、サービスの透明性、信頼性、そしてコスト効率を向上させるための鍵となる機能です。これを適切に導入・運用することで、企業はより信頼性のあるAIサービスを構築し、持続可能なビジネス成長を実現することができるでしょう。

AIとクラウドサービスの進化に伴い、ツールの選定と運用の責任は一段と重くなってきています。だからこそ、こうした高度な機能を理解し、適切に活用することが、これからの時代にAIの力を最大限に活かすための第一歩となるのではないでしょうか。

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