イギリスを拠点にする大手金融サービス企業「NewDay」は、最近、AWS(Amazon Web Services)と協力して革新的なカスタマーサポート支援システムを開発しました。これは、生成系AI(Generative AI)を活用したエージェント支援ツールで、顧客対応の品質と効率を飛躍的に向上させることに成功しています。今回、その精度は90%以上とも報告され、金融業界をはじめとする多くのカスタマーサポート領域において注目を集めています。
本記事では、NewDayがどのようにしてこの高度なAI支援システムを構築したのか、その背景や技術的アプローチ、実際に得られた効果について詳しく解説します。また、この成果が業界や顧客体験にもたらすインパクトについても掘り下げます。
NewDayとはどのような企業か?
まずはNewDayの概略を知っておきましょう。NewDayは英国市場において与信ソリューションおよび消費者向け金融商品を提供する企業で、クレジットカード、分割払いサービス、消費者向けローンなどを提供しています。Daily use creditやStore cardなど、多様な金融商品を通じて何百万人もの顧客の生活を支えています。
急速に進化するデジタル環境や高まる顧客の期待に応えるため、NewDayはカスタマーエクスペリエンス(CX)の改善に継続的に取り組んできました。その過程で着目されたのが、生成系AIを用いた新たなカスタマーサポート支援でした。
生成系AIによる革新
カスタマーサービスの現場では、コールセンターのオペレーター(エージェント)が顧客からの問い合わせに迅速かつ的確に対応する必要があります。しかし、膨大なドキュメントやガイドラインの中から適切な情報を探し、最適な回答を提案するのは容易なことではありません。特に複雑な問い合わせでは、エージェントの負担が大きくなり、結果として対応時間の延長や誤回答のリスクが生じることもあります。
NewDayはこれらの課題に対して、AWSの生成系AIソリューションを活用することを決断しました。具体的には、Amazon Bedrockに基づいたエージェント支援ツールを開発したのです。このツールは、顧客との会話をリアルタイムで分析し、適切な回答を提案することで、エージェントの業務を支援します。
モデル選定と構築アプローチ
生成系AIプロジェクトにおいては、適切なモデル選定が最も重要なステップのひとつです。NewDayは以下の要素を重視してモデルの評価を行いました。
– 精度の高さ
– 応答の一貫性と自然さ
– プライバシーと情報漏洩のリスク回避
– スケーラビリティ
最終的に、Amazon Bedrockを選定するに至ったのは、複数の基盤モデル(Foundation Models)へのアクセスを持つという点が大きな決め手となりました。Amazon BedrockはAnthropic, AI21 Labs, Stability AI, Amazon Titanなどのモデルを統合的に扱えるサービスで、ニーズに最適なモデルを選択しやすく、さらに運用が簡素であるという強みがあります。
特に、AnthropicのClaudeモデルは、長文応答の精度や会話の自然さに定評があり、NewDayのニーズに合致していました。このモデルを活用し、内部ドキュメントやFAQ、ガイドラインなどをベースに訓練を行い、正確かつ文脈に即した回答生成ができるよう設計されました。
プロンプトエンジニアリングとRAGアプローチ
生成AIの精度や実用性を大きく左右する要素として、「プロンプトエンジニアリング」があります。これは、AIに対してどのように質問や命令を与えるかを設計する技術で、最終的な応答の品質に直接つながります。
NewDayでは、標準的なプロンプト設計に加えて、「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」という手法を取り入れました。この手法では、事前にAIが企業内ドキュメントやナレッジベースから関連情報を検索し、それに基づいて回答を生成します。これにより、回答内容の正確性が大幅に向上し、エージェントも安心してAIの提案に基づいた応答ができるようになります。
この仕組みは、Amazon Kendra(企業向けのインテリジェント検索サービス)と連携させることで効果を上げました。さらに、Amazon API GatewayやAWS Lambdaを活用し、スケーラブルなリアルタイム連携を実現しています。
システムの統合とセキュリティ対策
NewDayが構築したエージェント支援システムは、既存のCRMシステムやオペレーターの業務プラットフォームとシームレスに統合されています。これにより、新たなトレーニングやツール習得の必要がほとんどなく、現場への導入が非常にスムーズに行われました。
また、金融業界においては、顧客情報の保護が非常に重要です。NewDayでは、生成系AIの回答が「幻覚(hallucination)」と呼ばれる不正確な内容を生み出さないよう、回答に情報源のリンクを含めるなどの工夫が施されています。これにより、エージェント自身が答えの正確性を確認でき、信頼性の担保と品質の管理が同時に実現できるのです。
成果と具体的な数値
このAI支援ツールを実運用に展開した結果、NewDayでは以下のような成果が挙げられています。
– 回答候補の正答率:90%以上
– 顧客対応時間の短縮
– オペレーターの満足度向上
– 新人オペレーターの立ち上げ時間を短縮
オペレーターのフィードバックでも「回答が即座に表示され、対応の自信が増した」「知らない問い合わせへの対応も柔軟にできた」といった声が多く寄せられました。
今後の展望
今回の成功を皮切りに、NewDayでは更なるAI活用の展望を描いています。例えば、自己解決を望む顧客向けにチャットボットへの展開や、より高度なFAQ自動回答システムの構築などが検討されています。また、収集された問い合わせ内容とAIの応答ログを活用して、ナレッジベースの品質向上や商品開発へのフィードバックに活かす試みも予定されています。
まとめ:生成系AIは顧客接点の未来を変える
NewDayがAWSと共同で開発したAIエージェント支援システムは、単なる自動化を超えて、人とAIのハイブリッドによる質の高いカスタマーサポートを実現しています。生成系AIは、決して人間を置き換えるのではなく、人間の能力を補完し、強化させるものとして捉えるべきです。
これからの時代、顧客ニーズの多様化と迅速な変化が求められる中で、AIが果たす役割はますます重要になっていくことでしょう。NewDayの導入事例を参考に、多くの企業が生成系AIの可能性を探求し、顧客体験の革新につなげていくことを期待しています。