Uncategorized

Amazon Bedrockを賢く使いこなす:生成AI導入時の7つのコスト最適化戦略

Amazon Bedrockにおける効果的なコスト最適化戦略

近年、生成AI(Generative AI)の急速な進化と普及により、多くの企業が自社のプロダクトや業務フローにAI機能を組み込もうとしています。Amazon Web Services(AWS)の提供する「Amazon Bedrock」は、そのニーズを満たすための強力なプラットフォームとして注目を集めています。Bedrockは、複数の主要なAIモデルプロバイダーが提供する基盤モデル(Foundation Models)を、API経由で簡単に利用可能にするサービスであり、開発者はインフラ管理の負担なく、大規模言語モデル(LLM)やその他の生成AI機能を自社アプリケーションに素早く統合することができます。

しかし、高機能で柔軟性の高いサービスであるがゆえに、その利用コストが無視できない課題として浮上しています。特に商用利用を考えるエンタープライズ環境では、コスト効果を最大限に高める手法が求められます。本記事では、2024年5月にAWS公式ブログで公開された「Effective cost optimization strategies for Amazon Bedrock」という記事の内容をもとに、Amazon Bedrockのコスト最適化に役立つ実践的な戦略をご紹介します。

1. モデルの選定を戦略的に行う

Amazon BedrockはAnthropic(Claude系)、AI21 Labs(Jurassic系)、Cohere、Meta(Llama系)、Stability AI(画像生成モデル)など複数のモデルを統合的に利用できる利点があります。しかし、それぞれのモデルには性能や出力の品質だけでなく、価格体系にも違いがあります。たとえば、同じような自然言語処理のタスクでも、より高性能なモデルは通常より高額となる傾向があります。

コスト最適化の第一歩は、「必要な業務に対して、最小限の性能で成果を出せるモデルを選定する」ことです。小規模なQ&A機能で十分ならば、ミッドレンジのモデルで十分かもしれませんし、特定の形式の出力に特化したモデルを活用すればトークン数を圧縮でき、結果的にコストを削減できる可能性もあります。

また、一部のプロバイダーは、同系列モデルで複数のサイズを提供しており、たとえばClaudeの中でも「Claude Instant」といった軽量版があります。こうしたモデルを適材適所で使用することが、トータルコストを大幅に下げるカギとなります。

2. 推論設定(Inference Configuration)のチューニング

Bedrockでは、推論に必要なプロンプトと出力のトークン長(長さ)によって課金額が決まります。実際の使用場面で、必要以上に長い応答が得られていたり、トークン数が多すぎるようであれば、出力トークンの設定(max tokens)を見直すことが重要です。

また、プロンプトを冗長に書いている場合、入力側のトークン数が膨らむこともあります。そのため、プロンプトエンジニアリングの観点からも「期待する出力をより短い入力で得られるようにする」工夫が、コスト削減に直結します。

具体例としては、複数の質問を一度に送らず、必要な内容だけを逐次送信したり、前の文脈を再利用するのではなく簡潔にまとめた要約を渡すなどの方法があります。

3. 入力と出力のトークン使用量の可視化と分析

AWSは、CloudWatchやBedrockの統計ツールを通じて、モデルごとのトークン使用量・応答時間などのメトリクスを可視化する仕組みを提供しています。これを活用し、どのユースケースでトークン数が肥大しているのか、不要に高性能のモデルを使用していないかといった観点で現状を把握することが、コスト最適化の出発点です。

この可視化は、日次・週次での定期レポートを作成することで、運用上の改善ポイントを発見する助けになります。また、実運用にサービスを移行する前に、開発環境やテスト環境で十分なA/Bテストを行い、パフォーマンスとコストのバランスを調整する設計努力が有効です。

4. キャッシュと再利用で無駄を削減する

応答の中には、毎回異なるデータが必要なわけではなく、ほぼ同一の入力・出力が繰り返されるケースもあります。たとえば、FAQへの応答や、テンプレート形式での生成応答などです。こうした場合は、キャッシュ(結果の保存)を実装することで、同一内容の繰り返し推論を避け、コストを軽減することが可能です。

キャッシュ戦略としては、リクエストのハッシュ値をキーとして応答内容をDBやメモリに保存し、後続の同一リクエストでは保存済みの応答を送出する方法が一般的です。頻繁にアクセスされる推論結果を再利用できれば、トークン消費はその分発生せず、直接的なコスト削減につながります。

5. チャットアプリケーションにおける文脈保持手法の見直し

チャットボット機能など、特に連続的な会話の文脈を維持する必要があるアプリケーションの場合、過去の会話履歴を都度プロンプトに含めて送信すると、そのトークン数が指数的に増大しがちです。

この問題に対抗するためには、会話履歴全体をそのまま再送するのではなく、「文脈の要約」や「トークン内制限による切り捨て処理」といった工夫が求められます。LLMによっては、過去の対話内容を数文に要約するようなプロンプト自体を一度だけ投げ、以降はその要約文のみをベースに次回の質問を送信するというテクニックも有効です。

これにより、トークン数を10分の1以下に抑制できる事例も報告されています。

6. Amazon CloudWatchメトリクス・アラートの活用

運用時にトークン使用量やモデル推論時間の異常を即座にキャッチするためには、Amazon CloudWatchのメトリクスとアラート機能を活用するのが効果的です。たとえば、特定のユーザーが極端に高コストなリクエストを継続的に送信している場合、それを自動検知し通知を受けることで、問題が拡大する前に対処できます。

また、部門別やユースケース別にリソース使用状況のダッシュボードを構成すると、予算管理や利用制限の検討材料としても役立ちます。

7. 請求レポートとコスト配分タグ(Cost Allocation Tags)の設定

AWSでは、リソースごとの請求情報にタグを付与することで、各プロジェクト・チーム・業務機能ごとに使用量と費用を可視化することが可能です。Amazon Bedrockの場合も、API呼び出しやモデル推論に関連するリクエストにタグを設定しておくことで、どの業務にどれだけの生成AIコストが発生しているのかを明確にできます。

こうした情報があれば、経営層やCFOに対しても、生成AI投資の費用対効果を定量的に示す上で説得力が増します。

まとめ:戦略的な活用が生成AIの価値を引き出す

Amazon Bedrockのもつ機能や柔軟性は素晴らしく、多くの業界やユースケースで活用の可能性が広がっています。しかし、その機能を最大限活用しつつ、限られた予算内で効果的に運用するには、日々の工夫と可視化による改善が不可欠です。

「高性能であること」と「高コストであること」は必ずしも比例しません。最小限の資源で最大の成果を引き出すアプローチこそが、Amazon Bedrockやその他の生成AIサービスを中長期的に活用するための鍵となります。

今回ご紹介した7つのコスト最適化戦略は、あくまで普遍的な指針であり、実際の導入にあたっては業務の特性やユーザー層、サービスレベルに応じて柔軟に適応させる必要があります。ぜひ、自社のAI活用プランに照らし合わせ、継続的な改善のための土台としてご活用ください。

参考リンク:
この記事の詳細は、AWS公式ブログ「Effective cost optimization strategies for Amazon Bedrock」にてご確認いただけます。
(https://aws.amazon.com/blogs/machine-learning/effective-cost-optimization-strategies-for-amazon-bedrock/)