近年、生成AIの進歩により、企業の業務効率や情報活用のレベルが飛躍的に向上しています。特に注目されているのが、RAG(Retrieval-Augmented Generation)と呼ばれる技術です。これは、外部の知識ベースから関連情報を検索し、生成モデルに入力することで、より正確で文脈に合った回答を提供できるという手法です。本記事では、そのRAGベースの企業向けアプリケーションを、いかにして費用対効果良く構築できるか─特にIntelのGaudi 2アクセラレータとIntel Xeonプロセッサを活用することで達成された取り組みについてまとめています。
RAGとは?そしてなぜ今注目されるのか
生成AIが提供する自由な文章生成能力には限界もあります。たとえば、最新のニュースや企業内部の非公開データなど、モデルの“知識”が届かない範囲については、誤情報を生成してしまうリスクがあります。この課題を解決するのがRAGです。RAGは、検索エンジンのようにデータベースやファイル、社内Wikiといった外部ソースから関連情報を抽出し、それを補助情報として生成AIに利用させることで、ユーザーにより妥当で信頼性の高い回答を提供します。
とはいえ、多くのデータを検索し、大規模な生成モデルを実行するRAGアプリケーションは、計算リソースを大量消費しがちであり、それに伴うコストが課題となります。とりわけ企業規模でそれを常に稼働させる場合は、インフラコストが非常に大きくなるため、より効率的なソリューションが求められています。
Hugging FaceとIntelの共同検証:Gaudi 2で実現する高速かつ安価なRAG環境
本記事は、AI研究の最前線を進むHugging Faceと、半導体業界の巨人Intelによる共同取り組みの成果を紹介しています。今回、Hugging Faceは、メモリ制約や長距離文脈を取り扱う特性をもつ最新のトランスフォーマーモデル「FiD(Fusion-in-Decoder)」を用いて、RAGパイプラインを構築。その実行環境として、Intel Gaudi 2アクセラレータと、第4世代Intel Xeonプロセッサを使用しました。
Gaudi 2は、AI向けに最適化されたアクセラレータであり、高速な計算能力とコスト効率のバランスに優れた設計が特徴です。NVIDIAのGPUに匹敵する性能を発揮しながら、クラウドベースの環境ではより価格競争力があります。特にAWSでは、「DL1インスタンス」としてGaudiを搭載した選択肢が提供されており、実験や本番環境の構築も容易です。
実際に行われたベンチマークでは、同じタスクをNVIDIAのA100 GPUと比較して、Gaudi 2の使用により最大で40%のコスト削減が確認されたとのことです。CPUとして組み合わせたXeonもRAGに適したメモリ帯域と多コア処理能力を持っており、データの前処理や検索処理を効率的に行うのに貢献しました。
効率的なRAGアーキテクチャの設計とチューニングのポイント
構築されたRAGパイプラインは以下のような構成要素で成り立っています:
– データインジェスチョン:企業の内部文書やFAQ、ナレッジベースを収集し、テキスト形式に整形
– 検索インデックス作成:ドキュメントを意味的に分割し、ベクトル化。faissライブラリなどを用いて高速検索可能なインデックスを作成
– retrieverモデル:ユーザーの質問から関係性の高い文書を検索する
– readerモデル:retrieverによって抽出された文書と質問を組み合わせ、最適解を生成
特に、retrieverとして用いた「Contriever」モデルは事前学習済みのエンコーダをベースにしており、精度と処理速度のバランスが良好です。また、readerとして採用された「FiD-large」は、大量の文書と組み合わせても高精度な出力が得られました。
また、Gaudi 2で処理を効率化するため、モデルのバッチサイズの調整やクエリの再利用、並列実行処理などの工夫も加えられ、処理速度の向上に貢献しました。
インフラ選定時の現実的視点
費用対効果の評価は、単なる処理速度だけでは測れません。クラウドベースのAI技術を活用する場面では、常時稼働を前提とした利用料金や拡張性も重要です。この点で、AWS上で稼働するGaudi搭載DL1インスタンスは、長時間のトレーニングや推論に向けた割安な選択肢を企業に提供しています。さらに、Hugging Faceが提供する「Optimum-Habana」と呼ばれるツールキットを使えば、PyTorchベースのモデルをほぼ同じコードでGaudi 2向けに最適化することが可能です。
さらに、バッチ推論などをスケジューリングし、ピーク時のみ拡張するハイブリッド型のインフラ構成も組み合わせることで、さらなるコスト削減と可用性を両立することが可能になります。
企業RAG導入に向けての現実的な指針
最終的に、この記事では企業がRAGソリューションを導入する際の道筋と注意点にも言及しています。単に生成AIを導入するだけでなく、自社のナレッジ活用にRAGを組み合わせることで、社内文書検索やFAQ応答などの業務効率が大きく改善される可能性があります。
特に、IntelのGaudi 2のようなコスト競争力の高いハードウェアと、Hugging Faceが提供するオープンなモデル群、さらにはApache Arrowやfaissといった高性能なツールを組み合わせることで、大企業のみならず中小企業やスタートアップにとっても、生成AIによる実運用が現実のものとなりつつあります。
今後は、セキュリティ、データプライバシー、ユーザーインタフェースの使いやすさといった周辺要素も含めて、RAGを基盤とする企業ソリューションが進化していくことが期待されます。低コストで高性能、そして柔軟な運用が可能な環境が実現されれば、日本国内企業にとってもAI導入のハードルは大きく下がることでしょう。
まとめ
RAGベースの生成AIアプリケーションは、単なるチャットボットを越えて、企業のナレッジマネジメントを抜本的に変革する可能性を秘めています。Intel Gaudi 2とIntel Xeonによる構成は、その高い性能と経済性のバランスにより、多くの企業にとって現実的な選択肢となることが示されました。今後さらに多くの導入事例が増え、生成AIを活用した知識活用が企業の競争力につながる時代が到来するでしょう。RAG技術と最新AIインフラの組み合わせによる可能性を、貴社でも一度検討してみてはいかがでしょうか。