HERE Technologies、生成AIを活用した新たなコーディングアシスタントで開発者の生産性を大幅に向上
近年、生成AI（生成的人工知能）の進化が飛躍的に進み、さまざまな産業分野において、その技術が実際の業務にもたらす価値が高まりつつあります。生成AIは文章生成や画像生成といったタスクだけでなく、プログラムコードの自動生成や補完にも活用されており、開発者の業務効率を格段に引き上げる可能性を秘めています。こうした中で、先進的な位置情報テクノロジーを提供するHERE Technologiesは、Amazon Web Services（AWS）との協業を通じて、生成AIを活用した新たなコーディングアシスタントを開発し、開発者体験の革新に取り組んでいます。
本記事では、HERE Technologiesが導入した生成AIベースのコーディングアシスタントの詳細と、それによってもたらされる開発生産性の向上、背景にある技術、そして将来的な展望について詳しく解説していきます。
HERE Technologiesとは
HERE Technologiesは位置情報データと位置情報プラットフォームの提供で世界をリードする企業です。同社はナビゲーション、ロジスティクス、モビリティ、都市計画などさまざまな分野で利用される地理空間データの収集、処理、提供を行っており、自動車メーカーから物流企業、通信事業者、自治体まで、幅広い顧客にサービスを提供しています。
多くの開発者がHEREのプラットフォームを使ってアプリケーションやサービスを構築しており、そのエコシステムは年々拡大しています。このような膨大な開発ニーズと技術革新への強い要請を受けて、HERE Technologiesはより効率的で革新的な開発環境の構築を目指して、生成AIを活用したコーディング支援ツールの開発に踏み切ったのです。
生成AIによるコーディングアシスタントの導入背景
HERE Technologiesは、高品質なコードの迅速な開発を実現するため、従来の統合開発環境（IDE）やツールセットだけでは限界があると認識していました。特に、新しい開発者のオンボーディング、高度なAPIの活用、古いコードベースの理解など、開発者が日常的に直面する課題は数多く存在します。
このような課題への対応策として同社が注目したのが、生成AI、とりわけコーディング支援に最適化されたLLM（大規模言語モデル）技術です。これにより、開発者が自然言語でコード記述の意図を伝えるだけで、即座に適切なコードが提案される環境を実現することが可能となりました。
AI支援ツールの開発にあたり、HERE TechnologiesはAWSのフルマネージドサービスであるAmazon SageMakerを採用しました。これは、機械学習モデルのトレーニング、チューニング、デプロイを一貫して管理できるプラットフォームであり、効率的かつセキュアに生成AIの技術を導入できる大きな利点があります。
Amazon SageMaker JumpStartの活用
Amazon SageMakerの中でも、HEREが特に活用したのが「SageMaker JumpStart」です。これは、事前学習済みのモデルと機械学習ソリューションのカタログであり、目的に合わせてすぐに使えるAIモデルのライブラリとして機能します。HEREの開発者チームはこのJumpStartを通じて様々なLLMをテスト・評価し、自社のニーズに最も合致したモデルの選定に成功しました。
選定されたモデルは、コーディング環境と開発者のワークフローにシームレスに統合され、リアルタイムでコードの自動補完、ドキュメント生成、バグの検出支援などのタスクを実行することができます。これにより、開発フローの各段階で生じる「調査・コード理解・試行錯誤」といった非効率な時間を大幅に削減することが可能になります。
導入後の成果と開発者体験の変化
HERE Technologiesが今回導入した生成AIベースのコーディングアシスタントは、現在、社内の複数の開発チームによって活用されています。特に以下のような点で目立った効果が報告されています。
1. オンボーディングの迅速化
新たにチームに加わった開発者が、過去のコードベースや設計思想を理解するには時間がかかるものですが、AIアシスタントによるコード解説機能により、学習時間が大幅に短縮され、即戦力としての稼働がより早く実現できるようになりました。
2. ドキュメント整備の自動化
通常は後回しにされがちなコードのコメントやAPI仕様書の作成が、AIによって自動的に生成されるようになったことで、ドキュメントの品質と網羅性が大きく向上しました。
3. コード品質の向上
生成AIは最新のコーディングスタイルやパフォーマンスに関するベストプラクティスに基づいてコードを提案します。その結果、バグの入り込みが減少し、再利用性や保守性の高いコードが生まれやすくなったとのことです。
4. チーム間の知識共有の加速
AIによるコード説明やコード例の共有が可能となったことで、各チームメンバー間での知識の属人化が解消され、よりスムーズなコラボレーションが実現されています。
セキュリティとプライバシーへの配慮
AIによるコード生成が可能となる一方で、機密性の高いソースコードやプロジェクト情報の流出リスクが懸念されることも事実です。HERE Technologiesはこの点に関しても徹底した対策を講じており、Amazon SageMakerのセキュリティ機能を最大限に活用して、データの暗号化、アクセス制限、監査ログ管理による厳格なコンプライアンス体制を構築しています。
また、使用しているLLMはHERE内部のデータで継続的に再トレーニングされており、汎用AIモデルと異なり、業界特化の知識やプロジェクト固有のルールに沿ったアウトプットを生成できる点も、安全性と実用性の両立として高く評価されています。
今後の展望とイノベーションの可能性
HERE TechnologiesのAI戦略はまだ始まったばかりです。今後は、現在のコーディング支援のみならず、テスト自動化、ビルド処理最適化、CI/CD（継続的インテグレーション／継続的デリバリー）パイプラインへのAIの応用など、開発ライフサイクルのあらゆる領域に生成AI技術を展開していく構想があるとのことです。
また、将来的にはAPI使用例の自動生成や、ユーザーからのフィードバックデータを反映させたカスタムフィーチャーの強化も視野に入れており、開発者にとってより直感的で、強力な開発環境の提供を目指しています。
さいごに：開発者ファーストの未来を支える技術革新
開発者が最大限に創造力を発揮できる環境を整えること——それは、現代のソフトウェア企業にとって最も重要な投資先のひとつです。HERE Technologiesは生成AIとクラウド技術を融合させることで、このビジョンを着実に現実のものとしつつあります。
特別なスキルを持たなくても高品質なコードを自動的に生成し、既存の知識資産を活用しながら、開発スピードと品質の双方を向上させる。ここには、未来型の開発プロセスが垣間見えます。
これからも、技術革新と開発者体験の向上は密接に関係していくでしょう。HERE Technologiesのような先進企業の取り組みは、私たち開発者にとっても大いに参考になるものであり、開発の在り方そのものを見直すきっかけとなるはずです。
今後ますます進化するAIと開発環境の世界に、ぜひ注目していきたいものです。
