データ主導の意思決定を支えるAIプラットフォーム「Socrates」 〜 QualtricsがAmazon SageMakerとBedrockを活用して実現した革新 〜
現代のビジネスにおいて、企業が顧客や従業員、ブランド体験などのインサイトを取得し、それに基づいて迅速かつ効果的に意思決定を下すことはますます重要になっています。そうしたニーズの中心にAIの力を活用する動きがありますが、その先進的な取り組みの一つとして、エクスペリエンス管理（XM）をリードする企業 Qualtrics が開発したAIプラットフォーム「Socrates（ソクラテス）」が注目されています。
Socratesは、AmazonのAIサービスであるSageMakerとBedrockを活用して構築されており、生成AIと大規模言語モデル（LLM）によってデータ理解と応答性を飛躍的に高めることを目指しています。本記事では、この革新的なプラットフォームがどのように設計・構築され、ビジネスに実際に貢献しているのかについて、詳しくご紹介します。
Qualtricsの挑戦：AIによる次世代のエクスペリエンス管理へ
Qualtricsは、あらゆる対話や調査、フィードバックから得られる情報を「シグナル」として取り扱い、それらを可視化し、組織としてのアクションへ導くことにより、従業員・顧客体験を向上させるXM（エクスペリエンス管理）プラットフォームを提供しています。これらのシグナルには、顧客満足度調査の回答、チャット履歴、SNS反応、NPS（ネット・プロモーター・スコア）など、多種多様なデータが含まれます。
しかし、このような膨大で非構造的なデータをリアルタイムで理解・分析し、適切な示唆へと変換するには、従来のルールベースや統計的アプローチでは限界があります。Qualtricsはここで、生成AIと大規模言語モデル（LLM）の力に着目しました。
「Socrates」は、ユーザーとの自然言語での対話を可能にし、誰でも簡単に大量データの背後にある意味や洞察を引き出せることを目的とした導入型のAIアシスタントです。これにより、たとえば「製品Xに対する顧客の最も一般的な懸念は何か？」といった定性的な質問にも、AIが整然とした回答を提供できるようになります。
Amazonの技術基盤：SageMakerとBedrock
Socratesの開発には、AI・機械学習の実装と運用が鍵となりました。ここでQualtricsはAWS（Amazon Web Services）のサービスを活用する道を選びました。中でも中心を担ったのが、Amazon SageMakerとAmazon Bedrockです。
SageMaker：エンドツーエンドでMLモデルを管理
Amazon SageMakerは、機械学習モデルの構築、トレーニング、デプロイ、モニタリングまでを一貫して行えるサービスです。QualtricsではまずこのSageMaker上で、データ前処理・フィルタリング・ベクトル化などのパイプラインを構築し、モデルの性能を最大限発揮できる環境を設計しました。
またML Ops（機械学習の運用）にもSageMakerが活用され、モデルのトレーニング履歴や性能管理を容易にし、継続的な改善を実施できるようになっています。さらに、SageMakerのマルチモデルデプロイメント機能を活かすことで、さまざまなAIモデルを効率的にスケーリングし、コスト効率よく運用できる体制が整えられています。
Bedrock：サーバーレスで手軽に生成AIを導入
Socratesのもう一つの技術的柱がAmazon Bedrockです。Bedrockは、複数のLLMベンダー（Anthropic、Cohere、AI21 Labs、Stability AIなど）やAmazon Titanモデルにアクセスできる生成AIプラットフォームです。アプリケーション開発チームは複雑なインフラを管理することなく、好みのLLMへのアクセス・呼び出しが可能となります。
Qualtricsでは、Amazon Bedrockを通じて複数のLLMを並列的に評価し、「最も解釈力と精度が高い応答を返せるモデル」を選定しユーザー心理の理解に役立てています。API形式で使えるため素早くアプリケーションに組み込むことが可能で、実験的な開発や迅速なプロトタイピングにも大きく貢献しています。
Socratesの機能概要：自然言語で洞察を得るユーザー体験
Socratesは、企業内の一般社員からデータサイエンティストまで、多様な職種が日常の業務で活用できるようにデザインされています。Socratesに質問するだけで、言語解釈、質問の意図理解、関連データの特定、情報要約、グラフ生成などが自動で行われ、あたかも人間のアナリストが裏で作業を行っているかのような応答が返ってきます。
具体的には、以下のような質問に対応可能です。
– 「過去6ヶ月で、製品カテゴリYのNPSスコアはどのように変化したか？」
– 「価格に関する苦情はどの市場で最も多く見られるか？」
– 「サポートチームに関するポジティブな顧客の声をまとめてほしい」
Socratesはこれらに対して、自然言語で簡潔なレポート形式の回答や、必要に応じて可視化データ（グラフ、表）を提示します。このようにして、単なるデータのダッシュボード以上の「アクション可能な洞察（actionable insight）」を提供してくれるのです。
セキュリティとプライバシーの重視
企業向けAIサービスにおいて求められることの一つは、安全性とプライバシーの確保です。QualtricsはSocratesの設計段階から、この点を強く意識してきました。入力されるフィードバックデータには顧客情報や機密情報が含まれる可能性があるため、データの暗号化、アクセス制御、LLM出力のフィルタリングや検閲など慎重な処理が施されています。
また、開発中のテストデータやプロンプト設計においても、個人特定が可能な要素を含まないよう設計方針が徹底されており、ユーザーにとって安心して利用できるサービスとなっています。
実際のビジネスへの影響
Socratesのリリース以降、Qualtricsのクライアント企業は大きな恩恵を受けています。たとえば、ある大手小売業では、膨大な量の店舗フィードバックに自動的にラベル分けや要約を施すことで、マーケティング部門が週次で行っていた報告作業が数分で完了できるようになりました。
また、従来顧客体験データの活用に苦労していた中小企業でも、SocratesのチャットベースのUIにより、専門知識なしで分析が可能となり、社員全体のデータリテラシーが向上する結果となっています。
将来への展望：Socratesが示す企業AI活用の可能性
Socratesの導入・展開は、単なる業務効率化にとどまらず、企業文化や組織の意思決定のあり方そのものに変革を促しています。従来のように一部のデータ専門家に依存する形から脱却し、組織内の誰もがデータと対話し、直感的に洞察を得られる世界が現実になりつつあります。
AIによって「情報の壁」を取り払い、全社員が「知見の持ち主」として行動できる社会の実現に向けて、Socratesは重要な一歩と言えるでしょう。このようなAIプラットフォームは今後、あらゆる業界や規模の企業で求められる基盤技術となる可能性があります。
まとめ
QualtricsがAmazon SageMakerとBedrockの力を最大限に活用して構築したSocratesは、単なるAIアシスタントを超えた、ビジネスの意思決定を根本から変える革新的なプラットフォームです。自然言語によるユーザーとの対話、セキュアなデータ処理、マルチモデル対応の柔軟性を備え、実際の現場で即時活用できるインサイトを導き出します。これからの企業にとって、SocratesのようなAIインフラは避けては通れない重要なステップとなるでしょう。
