Amazon Nova Liteで実現する低コスト・低レイテンシ・高パフォーマンスの生成AI:AWSの実体験から学ぶ活用方法
近年、生成AIは飛躍的な進化を遂げ、さまざまな業界において業務効率化、顧客体験の向上、生産性の向上といった目覚ましい成果をあげています。そして、大規模言語モデル(LLM)を活用したアプリケーションの普及が進む中で、開発者や企業にとってはいかに高性能かつ低コストで運用できるか、という点が極めて重要な評価ポイントとなっています。
本記事では、AWSが自社で開発・提供する基盤モデル「Amazon Nova Lite」を実際のプロダクト開発で採用し、その結果としてコストの削減、レイテンシの改善、そして高い応答パフォーマンスを達成した事例を紹介します。AWSがどのようにしてAmazon Nova Liteを選定し、どのような結果を得たのか。その実体験に基づいた貴重なインサイトを共有します。
生成AIを支える基盤モデルの選定における課題
AWSでは、社内に複数の製品・サービスを展開しており、それぞれに異なるニーズがあります。特に生成AIを活用するアプリケーションにおいては、正確な応答、短い待機時間(レイテンシ)、コスト最適化、スケーラビリティ、安全性、そしてカスタマイズ性が求められます。
これまで一般的には、パラメータ数の多い高性能LLM(例:GPT-4やClaudeなど)が使用される傾向がありました。しかしながら、これらの大規模モデルはコストが高く、応答速度も一定の制約があります。さらに、全てのユースケースにおいて最大規模のモデルを使用する必要は無く、より軽量で適切なパフォーマンスを持つモデルが望まれる場面も多々あります。
このようなニーズを背景に、AWSでは自社のユースケースに最適な軽量LLMとして「Amazon Nova Lite」モデルの導入を検討しました。
Amazon Nova Liteとは?
Amazon Nova Liteは、AWSが自社で開発した軽量かつ高性能な基盤モデル(foundation model)です。2024年4月にAmazon Bedrock上で初めて公開され、アメリカ英語で最適化されており、ニュース記事、会話文、学術情報、コード、FAQなど、幅広いソースのデータでトレーニングされています。
Nova Liteは特に、平均的なユーザー向けの軽量な問い合わせ、要約、情報検索、キャタログの説明文生成などに強みを持っており、非常に高速な応答性と安定した生成能力を持っています。また、使用コストが他の大規模モデルと比較して大幅に抑えられている点が注目されています。
AWS Field Experience チームの取り組み
まず、AWSのField Experienceチームは、社内外の顧客向けに活用するさまざまな生成AIアプリケーションの開発を担当しています。これは、開発者ポータル、ドキュメント要約ツール、問い合わせアシスタントなど、ユーザー体験を支援する幅広い用途にわたります。
このチームは、複数のモデルに対して厳密な比較分析を行い、最も適切なものを選定しています。基礎的な評価項目としてFP(First Prompt)レイテンシ、RTT(Round Trip Time)レイテンシ、コスト、品質、応答内容の一貫性などが挙げられます。
Amazon Bedrockと統合した運用アプローチ
Nova Liteモデルは、AWSのフルマネージドな生成AI開発サービス「Amazon Bedrock」と完全に統合されており、これは開発者にとって非常に大きなメリットとなります。従来は生成AIアプリケーションの立ち上げにあたって、モデルのインフラ構築やスケーリングといった多くの事前準備が必要でした。しかし、Bedrockの統合により、開発者はデプロイメントの手間を最小限に抑えつつ、高い可用性とパフォーマンスを実現できます。
AWSもこの利便性を活かし、各製品・サービスへの導入に際してNova Liteの性能を最大限に引き出しました。
成果:大幅なレイテンシ削減とコストパフォーマンスの向上
Field Experience チームのテストにおいて、Nova Liteは以下のようなパフォーマンス向上を記録しました。
1. 初回応答(FP)レイテンシの改善:
Nova Liteは、より迅速な応答を特徴としており、他の大型モデルと比較して、約半分に近い初回応答レイテンシを記録しました。これは、ユーザー体験の向上に直結し、特に対話型アプリケーションにおいて大きな利点です。
2. 全体的なラウンドトリップ時間の短縮:
短時間で結果が返ってくることで、開発者だけでなく利用者にとっても大きな満足度向上につながりました。
3. コストの削減:
同様の品質を求めた場合において、Nova Liteは他の基盤モデルの中でも特にコスト効率が高く、導入費用や運用費用を最大で約75%削減することができました。これは長期運用を前提としたサービスにおいて非常に重要なポイントです。
4. 安定した品質と応答内容の整合性:
軽量モデルでありながら、応答の一貫性や文脈理解能力も十分に高く、ユースケースに応じて満足のいく結果が得られる品質を実証しました。
理想的な活用シーン:すべてのユースケースに「最強」は不要
重要なポイントは、「大規模で高機能なモデルであっても、すべてのシナリオにおいて最適であるとは限らない」という点です。一部の複雑なユースケースでは最上位クラスのLLMの使用が望まれますが、多くの実用的な業務においては、Nova Liteのような軽量モデルがより適切で、しかもコストパフォーマンスにも優れています。
AWSは、Nova Liteのようなモデルを基本テンプレートとして採用し、必要に応じて他のモデルと組み合わせるハイブリッド型の構成も開発しています。これにより、各プロダクトにおいて最適かつ柔軟な構成でAI機能を統合できるよう配慮しています。
まとめ:軽量でもパワフル、Nova Liteが次世代の標準となる可能性
AWSの事例から分かる通り、Amazon Nova Liteは、単なる軽量モデルではなく、実用性と効率を兼ね備えた実力派の基盤モデルです。開発者にとっては、アプリケーションの迅速な立ち上げ、高いユーザー体験、そして長期運用におけるコスト効率を実現する鍵となります。
これから生成AI導入を検討されている方、既にAIモデルを使っているがさらなる最適化を図りたい方にとって、Amazon Nova Liteという選択肢は非常に有望です。特に、Amazon Bedrockとの連携による開発プロセスの簡便さは、今後の生成AIの展開において大きな武器になるでしょう。
生成AI時代の今、ただ強力なモデルを選ぶのではなく、「用途に合ったモデルを、いかに適切に選定し活用するか」がこれからの企業や開発者の競争力を左右する要因となるはずです。
Amazon Nova Liteは、その理想を体現する1つの手段として、今後ますます注目されることでしょう。