近年、膨大なデジタルデータの中から情報を適切に検索することが、企業活動や研究、ユーザー体験の向上において極めて重要になっています。しかし、従来の「キーワード検索(Keyword Search)」だけでは、その文脈や意味を把握することが難しく、特に曖昧な表現や類義語を含むクエリへの対応に課題がありました。一方で、「セマンティック検索(Semantic Search)」は文脈や意味に依存した高度な検索が可能ですが、あらゆるニーズを満たすには限界もあります。
そこで注目されているのが、これら異なる検索手法を統合して、最適な結果を提供するアプローチです。Amazonはこの課題に対し、「Amazon Bedrock」と「Amazon OpenSearch Service」を組み合わせることで、キーワード検索とセマンティック検索を融合し、テキストと画像の両方に対応した革新的な検索体験を提供しています。本記事では、この最新のソリューションとそのアーキテクチャ、ユースケース、実装例について詳しくご紹介します。
テキストと画像に対応した統合型検索の必要性
私たちが日々使用する検索機能にはいくつかの課題があります。例えば、従来のキーワード検索は「ある単語が含まれているかどうか」で結果を判断します。しかし、同義語やニュアンスの違い、あるいはユーザーが入力したクエリに誤りがあった場合などには、本来探している情報にたどり着けないことがあります。
一方、セマンティック検索は機械学習モデルや埋め込みベクトル(embedding)を活用して、文の意味を認識し、関連性の高い情報を返すことが可能です。しかしセマンティック検索でも、特定の単語やフレーズに対するマッチングの精度までは保証されず、厳密な条件検索が必要な場面では力不足と言わざるを得ません。
そこで、キーワード検索とセマンティック検索の利点を兼ね備えたシステムを構築することにより、ユーザーのニーズにより柔軟に応えられる検索体験が実現できます。また、検索対象がテキストに加えて画像を含むコンテンツの場合には、さらに高度な実装が求められます。このようなニーズに応えるため、AmazonはBedrockとOpenSearch Serviceを活用した統合的な検索アーキテクチャを提案しています。
Amazon BedrockとOpenSearch Serviceとは?
Amazon Bedrockは、Amazon Web Services(AWS)が提供するフルマネージドのAI基盤モデルサービスです。Anthropic, Cohere, Stability AI, AI21 Labs およびAmazon自身によってトレーニングされた複数の大規模言語モデル(Foundation Models:FM)をAPI経由で活用できるため、自社でインフラの構築やモデルのトレーニングを行うことなく、迅速に生成AI機能を組み込むことが可能です。
一方で、Amazon OpenSearch Serviceはオープンソースの検索および分析エンジンであるOpenSearchをクラウドネイティブで提供するサービスです。構造化・半構造化データに対して高速なフルテキスト検索や情報抽出、可視化を行う際に活用されます。また近年は、ベクトル検索やkNN(k-Nearest Neighbor)検索にも対応するようになり、AIとの併用によるセマンティック検索の基盤としての役割も果たしています。
統合型検索アーキテクチャの概要
Amazonが提案するソリューションでは、以下のようなアーキテクチャを採用しています:
1. データの収集と準備
テキストデータおよび画像データを対象に、Amazon S3やAmazon DynamoDBなどのストレージサービス上に企業が保有する情報を蓄積します。画像データについては、画像ごとに対応するメタデータ(タイトル、説明、カテゴリなど)も合わせて保持します。
2. AIモデルによるベクトル変換
テキストや画像、およびそれに付随するメタデータは、それぞれAmazon Bedrockを通じてベクトル形式に変換されます。たとえば、テキストはテキスト埋め込みモデルにより意味的な情報を保持したベクトルとして変換され、画像はCLIP(Contrastive Language–Image Pretraining)などの共通埋め込み空間にマッピングできるモデルで処理されます。
3. OpenSearchへのインデックス登録
得られたベクトル情報は、Amazon OpenSearch Serviceのベクトル検索インデックスに登録されます。また、検索時に従来のキーワード検索も併用できるよう、同一のドキュメントにテキストインデックス(逆インデックス)も併せて設定されます。
4. 検索機構
ユーザーからのクエリが入力されると、システムはまずセマンティッククエリ(ベクトル検索)とキーワードクエリの両方に解析を行い、それぞれの検索結果を得ます。これらの結果はスコアを元に順位付けされ、ユーザーに最も関連性の高い結果が提示されます。
ユースケースと活用事例
このような検索アーキテクチャは、さまざまな業種業界で活用が期待されています。
・eコマース:商品名やスペックが一致しない場合でも、ユーザーが求めている特徴や使用目的に応じた商品をセマンティックに検索できます。画像から類似製品を探すことも可能です。
・製造業:過去の設計図やCAD図面、技術マニュアルなどを対象に、高精度な検索が可能になります。例えば「防水性に優れた構造部品」という曖昧なニーズでも、セマンティック検索により一致する部品図面を見つけ出せます。
・医療・教育:患者記録や症例文書、研究論文などの文書検索において、キーワードや症状名だけでなく、文脈の意味合いを反映した検索結果が得られます。教育分野では、講義で使用される動画や例題、画像資料に対しても意味ベースの検索が可能になります。
ベストプラクティスと実装上のポイント
本ソリューションを導入するにあたり、以下のようなベストプラクティスが紹介されています。
1. ベクトルとキーワード検索のバランス調整
検索の精度を最大化するためには、ベクトル検索(意味的マッチ)とキーワード検索(正確な一致)の重みづけを適切に設計する必要があります。スコアリング戦略を工夫することで、最も関連性の高い結果を順位の上位に持ってくることができます。
2. カスタム埋め込みモデルの活用
Amazon Bedrockでは、標準的な言語モデルだけでなく、カスタムのファインチューニングモデルを使うことも可能です。たとえば業界固有の用語や文例に適したモデルを作成し、それを使ってベクトル化を行うことで、さらに精度の高い検索を実現できます。
3. セキュリティとアクセス制御
検索対象となるデータには、企業機密や個人情報なども含まれることがあるため、データ暗号化やIAMベースのアクセス制御設定など、セキュリティ対策を講じることが必須です。
まとめ:検索体験を次のステージへ
Amazon BedrockとOpenSearch Serviceを組み合わせることで、テキストと画像に対応したキーワード+セマンティック統合検索をシームレスかつ強力に実現できます。特定のキーワードに拘泥せず、意味ベースでの柔軟な検索が可能になるこのアプローチは、今後の検索体験を大きく変革する可能性を秘めています。
企業が保有する膨大な知識資産やデジタルコンテンツを、より直感的に、より親しみやすくアクセスできるようになることで、業務効率の向上、ユーザー満足度の改善、そして新たな価値創造へとつながるでしょう。
検索は単なる「探す」行為ではなく、「理解し、つながる」行為へと進化しています。本格的な生成AI時代の到来に対応するためにも、このような革新的な検索ソリューションの導入を検討してみてはいかがでしょうか。